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深度合成について

ピントが合ってるのに、なんか惜しい

虫を接写していると、こういう写真がよく撮れます。眼にはバッチリピントが合ってるのに、前に伸びた脚の先だけ、なんかぼやけてる。悪くはないんだけど、惜しい。

最初はてっきり自分の腕のせいだと思ってました。でも違うんですよね。これ、カメラの構造上どうしようもない話なんです。

被写体に近づけば近づくほど、ピントが合う奥行きの幅ってどんどん狭くなります。数センチのムカデを画面いっぱいに撮ろうとすると、その幅が数ミリしかない、なんてこともザラです。眼に合わせれば牙がぼける、真ん中に合わせれば頭と尾がぼける。どこかは必ず諦めるしかない。虫を撮る人なら、一度は「うーん」となったことがあるはずです。

じゃあ良いカメラを買えば解決するのかというと、これがしないんですよね。レンズを明るくしようが解像度を上げようが、この奥行きの問題は基本的に変わらない。むしろ拡大すればするほどシビアになる。どうも機材でどうこうできる話ではないらしい、と気づいたあたりで知ったのが深度合成でした。


深度合成って何をやってるの

ざっくり言うと、ピントの位置を少しずつずらして撮った何枚もの写真を、いいとこ取りで一枚に合成する技術です。

ピントをずらして撮影した素材

やること自体は単純です。カメラを三脚で固定して、ピントの位置だけを手前から奥へちょっとずつ動かしながら、同じ構図で何枚も撮る。手前にピントが合った一枚、真ん中の一枚、奥の一枚……という具合に、10枚とか20枚、多いときは数十枚撮ります。

それをソフトに放り込むと、「どの写真のどこがシャープか」を勝手に判断して、シャープな部分だけをつなぎ合わせてくれる。出てくるのは、頭の先から脚の末端まで全部にピントが合った一枚。撮ってる最中は「本当にこれで合うのか?」と半信半疑なんですが、ちゃんと合うんです。初めて成功したときはちょっと感動しました。

深度合成後の結果

出来上がった写真は、ちょっと標本写真っぽく見えるかもしれません。でも僕はこれがけっこう好きで。生きたままの色や質感はそのままに、肉眼じゃ一度に見きれない細かさが全部一枚に詰まってる。

甲虫の外骨格の細かい凹凸、ムカデの体節を縁取る光沢、タランチュラの脚を覆う毛の一本一本。普段は奥行きに邪魔されて全部は見えないこういう部分が、深度合成だと余さず写る。「気持ち悪い」って言われがちな連中が、実はとんでもなく精巧にできてるんだなと、撮るたびに思い知らされます。この感じを見てほしくて、僕は虫を撮ってるところがあります。


もうちょっとだけ、仕組みの話

興味ある人向けに、中で何が起きてるかも少しだけ。

深度合成のソフトは、だいたいこんな順番で処理してます。まず撮影中の微妙なブレを補正して全部の写真をピタッと揃える。次に、それぞれの写真の各場所が「どれだけくっきりしてるか」を計算する。最後に、場所ごとに一番シャープな写真を選んでつなぎ合わせる。

言葉にすると簡単そうなんですが、実際は境目をどれだけ自然に馴染ませるかとか、写真ごとの明るさの微妙な差をどう吸収するかとか、細かいところの詰めで仕上がりが全然変わります。ソフトによって得意不得意がハッキリ出るのもここ。特に脚の毛とか触角みたいな細くて入り組んだ被写体は、その差が容赦なく出るので、奇蟲の撮影はソフトの実力テストとしてなかなか手強い相手だったりします。

ちなみに今使ってるのは VerimisStackっていうソフトで、買い切りで配布されているものです。宣伝みたいになるとアレなので詳しくは書きませんが、気になる人がいたら販売ページを覗いてみてください。


ピントの向こう側

一枚だと、どこかは必ずぼやける。長いこと、虫を撮る人間はそれを当たり前として受け入れてきました。でも深度合成を覚えると、その「当たり前」の向こう側にちょっと手が届く。

冒頭の惜しい一枚、あれをもう一回撮り直してみてほしいんです。今度は牙の先から脚の末端まで、どこも妥協のない一枚が撮れるはずです。そこにはたぶん、今まで見たことのない虫の姿が写ってます。それを見たときの感じ、けっこう癖になりますよ。

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